あなたの部下の口から「辞めたい」という言葉が出たとき、どう受け止めていますか?
多くのマネージャーは、人間関係や給与、仕事内容といった目先の短期的な不満に注目しがちです。しかし、元CFOとしての経験から断言します。部下が本当に抱えているのは、「このままでいいのだろうか」「自分の成長はここで止まってしまうのではないか」という、ぼんやりとした長期的な不安です。
終身雇用制度が崩壊し、個人が自身のキャリアに責任を持つ時代です。部下たちは常に「個人のキャリア自律意識」を持っています。この長期的な不安を解消しない限り、一時的に不満を解消しても、数年後には同じ悩みを抱えて再び「辞めたい」と言うでしょう。短期的な解決策は、根本的な解決になりません。
短期解決の罠を回避!「10年後」を見据える力
目の前の不満解消に奔走することは、対症療法に過ぎません。その場をしのいでも、部下は必ずキャリアの壁に直面し、立ち止まってしまいます。部下を真の「独り立ち」へと導くには、長期的視点、具体的には10年後の未来を見据えることが不可欠です。
この長期視点こそが、抽象的な「頑張れ」ではなく、具体的な「頑張り」のエンジンになります。未来の明確な目標が見えることで、部下は目の前の仕事を「理想のキャリア実現」という大きなゴールへ向かうための「ステップ(投資)」だと認識できます。
キャリアの因果関係を整理してみましょう。
- ネガティブな連鎖:今の不満 → 短絡的な行動 → キャリア迷走
- ポジティブな連鎖:今の仕事 → 未来への投資 → 理想キャリア実現
部下を迷走から救い、成長を加速させるのは、この未来へのポジティブな因果関係の整理なのです。
実践ノウハウ:部下と共有する「未来予測」フレームワーク
未来予測とは、占いではありません。元CFOとして、市場、業界、会社のデータを基に実現可能性の高い未来図を描くことです。これは、部下に安心感と具体性のある目標を与えるための「材料」となります。
未来予測の「材料」集め
- 業界・会社の動向: 漠然とした話ではなく、データや市場の事例に基づき、今後10年で市場がどう変化し、会社や部下自身に必要とされるスキルやポジションを客観的に提示します。
- 将来のシナリオ: 部下の持つ関心や強みと、会社の成長戦略を掛け合わせます。これにより、未来図が「会社にとって都合の良い話」ではなく、「あなたにとって実現可能な成長ストーリー」になります。
「未来の理想像」を引き出す質問例
ただ「将来どうなりたい?」と聞くのは不十分です。部下の潜在意識にある理想を引き出すために、以下の質問を使ってみてください。
- 「10年後、どんなスキルを持ち、誰に、どんな影響を与えたいですか?」(仕事の貢献軸)
- 「市場から見て、あなたの『武器』は何だと評価されていますか?」(市場価値という客観軸)
- 「どんな生活を送るために、今の仕事が必要ですか?」(仕事と人生の接続軸)
未来を「共創」する!部下中心の4Sサイクル
部下のキャリアは、上司が一方的に設定するものではありません。未来を「一緒に創る(共創)」ために、以下の4Sサイクルで対話を進めてください。
Step 1: 共有 (Share)
まず、部下の現状の課題や不安をすべて言語化させます。上司は一切否定せず、ただひたすら傾聴に徹してください。これが、信頼関係を築く土台になります。
Step 2: 想像 (Imagine)
「未来予測フレームワーク」で引き出した10年後の理想像を、今度は部下自身に自由に描かせます。この段階では、理想が高すぎても構いません。この「想像」が、部下の内側から湧き出るエネルギーになります。
Step 3: 整理 (Sort)
「想像」した未来の理想と「共有」した現状とのギャップを、ロジカルに明確化します。このギャップを埋めるために、「今から始める具体的な行動」を一緒に設定します。目標設定ではなく、行動設定に重点を置くのがCFO流のノウハウです。
Step 4: 推進 (Succeed)
設定した行動に対し、半年後、1年後といった小さな成功マイルストーンを設定し、進捗をチェックします。この「成功した」という成長実感こそが、「辞めたい」というネガティブな気持ちを「できた!」というポジティブな感情に置き換え、モチベーションを維持します。
「頑張りたい」に変える心理的対話術
対話で大切なのは、言葉のテクニックだけではありません。部下のネガティブな感情を、成長へのエネルギーとして再定義する心理的なアプローチが重要です。
感情をエネルギーに変える「言葉の置き換え」
- 部下の「辞めたい」 → 「違う環境で成長したい」という意思表示だと捉え直す。
- 部下の「不安だ」 → 「成長意欲の表れ」だとフィードバックする。
視点の転換
部下が訴える現在の不満や課題を、未来の理想像へ向かうための「燃料」として上司が再定義し、伝えます。例えば、「この煩雑な業務を効率化できたスキルが、将来のマネジメントで必ず活きる」といった具体例です。
どこへでも行ける自信の付与
部下が設定した目標や獲得したスキルが、会社内だけでなく市場でも通用することを認め、肯定します。これにより、「もしこの会社でダメになっても、自分には価値がある」という揺るぎない自信を与えることができます。この自信こそが、部下が会社に依存せず、「独り立ち」して働き続けるための最大の武器になります。
成功事例:未来予測対話のケーススタディ
ケースA(新入社員・短期不満型)
目の前の単調な作業に不満を持っていた新入社員に対し、その作業が「5年後の専門性」「10年後の業界のキーパーソン」としてどう繋がるかという長期ロードマップを提示。これにより、目の前の作業が「未来への投資」であると理解し、モチベーションが回復しました。
ケースB(中堅社員・キャリア停滞型)
現在の業務に行き詰まりを感じていた中堅社員に対し、興味を示していたものの経験のない部署横断プロジェクトを提案。「10年後に必要なスキルセットの実験場」として位置づけることで、停滞感が解消し、新しいスキルを獲得したことで成長実感を取り戻しました。
まとめ:今日からできる『共創対話』3つのポイント
部下を「独り立ち」へと導く『共創対話術』は、今日から実践できます。
実践のポイントは以下の3点です。
- 対話の出発点を、目先の不満ではなく「10年後の理想像」に設定する。
- 業界のデータや事例を必ず用意し、客観的・論理的に未来を描く。
- 短期的な不満を「成長へのエネルギー」として、部下と一緒に再定義する。
この対話を通じて、上司・部下ともに目的意識を持って仕事に取り組めるようになります。結果として、持続的な成長を生み出す、強固なチームが形成されるのです。
あなたが今日、この記事を読んで、「明日から試してみたい」と思った『共創対話』の最初の一歩は、どんな具体的な質問ですか?
共感の言葉: どんな小さな一歩でも構いません。まず「行動してみる」ことが、あなたのマネージャーとしての大きな成長につながります。 具体的な問いかけ(コメントのハードルを下げる): あなたが明日、部下に対して最初に投げかけてみる「未来予測の質問」を、一つだけ教えてください。 あなたの行動(返信の宣言): いただいた質問には、FPとしての知見、そして元CFOのノウハウとして、必ず返信させていただきます。
X(https://x.com/kokoronoyohakuj)、Threads(https://www.threads.com/@kokoronoyohaku)でぜひ教えてください。あなたの具体的な「独り立ちへの最初の一歩」を拝見させていただきます。一緒に「お金に振り回されない人生」を築いていきましょう。